位置指定道路に面している土地上の建物の居住者は、道路の土地所有者に対し、自動車による通行の権利を有しているでしょうか。
位置指定道路の土地所有者との間で、自動車通行を認める契約を締結しているなどの事情があれば権利は肯定されますが、そうでなければ、自動車の通行が認められない場合もあります。
2 位置指定道路の意味
建築基準法は、幅員4m以上の私道のうち、一定の基準に適合するものについて、土地を建物の敷地として利用するため、建物を築造しようとする者が特定行政庁からその位置の指定を受けた場合、法律上道路と扱うこととしています(建築基準法42条1項5号)。特定行政庁から位置の指定を受けた私道を、位置指定道路といいます。位置指定道路に面する土地では、建物の建築が可能です。
3 歩行による通行と自動車の乗り入れ
ところで、位置指定道路は私道です。そのため、所有者が、利用に関する制限を付することができるのかどうかが問題になります。東京地裁平成23年6月29日判決は、次のとおり、幅約4m、総延長約37mの位置指定道路について、X1、X2ら(私道の所有者であり、位置指定道路の奥に位置する隣接地の所有者)が、私道に面する土地の所有者Y(私道の所有者ではない)に対し、X1、X2らの歩行や占有使用を妨害しないよう求めた訴訟において、Yの歩行・自転車による私道通行を許容しつつ、一方で、私道へのYの自動車の乗り入れは認めないという制限を付することができるという判断を下しました。
4 東京地裁平成23年6月29日判決
(1)一般公衆の通行
この判決はまず、『位置指定道路は私道ではあるが、その所有者以外の第三者を含む一般公衆の通行を許容する性質を有しているものであるから、公衆の通行・立入りを全面的に禁止したり阻害したりすることはできない。しかし、あくまで私道であるから、その所有者は、道路に対する維持・管理権を有し、位置指定道路の趣旨等、法令の規定に反しない限り、道路の保全と関係権利者の居住の安寧のため、道路の利用を自治的に定めることができ、道路を利用する一般公衆もその定めによる利用制限に服するものというべきである。
本件私道も、位置指定道路であり、かつ現状も道路として整備、利用されているものであるから、一般公衆の通行を禁止するような取決めをその所有者X1、X2らがしても、これに基づき直ちにYの利用を排除することはできない。』として、歩行・自転車による一般公衆の私道通行は制限できない旨を明言しました。
しかし、本件私道は幅約4m、総延長約37mの通り抜けできない道路であり、本件私道の所有者はいずれも本件隣接地の所有者であって、本件隣接地の利用者にとっては本件私道が公道に通じる唯一の通路であり、現にX1は毎日の通勤に自動車を利用していること、Y土地は通路状部分により直接公道に接しており、公道に接する部分には自転車やバイクの駐車が可能なスペースがあり、その他にも自転車等を駐輪するに足りるスペースがあること、これまでに平成22年11月ころに本件私道上に引越しのトラックが駐車して引越し作業が行われ、X2が、私道であるから止めてほしい旨申し入れて移動させたことが1度あることからすると、
Y土地の関係者が本件私道を徒歩ないし自転車等で通行することは、位置指定道路の性質からしても、また実際の本件私道やY土地の状況からしても、本件私道の所有者の所有権の行使を妨害するものとはいえないが、幅約4mしかなくかつ通り抜けできない本件私道に自動車を乗り入れることは、駐停車により本件私道によってのみ公道に通じている本件隣接地の利用者の利便を著しく損なう可能性の高いものであり、ひいては本件隣接地の所有者、すなわち本件私道の所有者の所有権の行使を妨害するものである。
そして、平成22年11月には実際に本件私道上にY建物への引越し作業のトラックが駐車するという事態が起きたものであり、Y建物が6世帯が居住可能となっている賃貸物件であることを踏まえると、今後も同様の事態が生じる蓋然性があるものといえ、かつ、Y土地は直接公道に接しているから本件私道への自動車の乗り入れが否定されたとしても大きな不都合を生じるものではない。』として、私道所有者が一般公衆の乗り入れを制限することができると判示しています。
5 まとめ
道路は、土地の利用価値との関係で、非常に重要な意味を持ちます。宅建業者は、土地の取引に関与するに際しては、常に、道路の幅、公道か私道か、利用制限はないかについて、細心の注意を払わなければなりません。