【2009年6月】投資用マンション売買での購入前の自殺

投資用マンションを購入した後、購入の約2年前に、マンションの一室に居住していた元所有者の家族が自殺していたことが判明しました。売買契約の解除や損害賠償請求をすることができるでしょうか。

1.売買契約の解除はできません。損害賠償請求は可能です。

2.事例

 8階建ての投資用マンションを、平成17年12月2日、代金2億2,000万円で購入したところ、売買契約の1年11か月前に、8階に住んでいた元所有者の娘が、居室で睡眠薬を多量に飲み、2~3週間後に病院で死亡したことが判明したという事件がありました。

 買主Xは、売買契約の解除をしたと主張し、売主Yに対し、損害賠償請求を求めて訴えを提起しました。

3.解除

 裁判所は、まず、次のとおり述べて、解除を否定しました。

 『建物において自殺があったことは事実であっても、睡眠薬の服用によるもので、しかも、建物内で死亡したわけではなく、病院に搬送された後2週間程度は生存して、病院で死亡したというのであるから、そもそもいわゆる首つりなどの縊死(いし)の場合や、殺人事件などの場合とは社会的な受け止め方が異なるものである。

 また、売買契約が締結されたのは平成17年12月2日であるところ、自殺は平成16年1月のことであるから、Xが不動産を取得した時点で既に約1年11か月が経過していたものであるところ、自殺は広く新聞等のマスメディアで報道されたものではなく、Yの前所有者やYへの売買契約を仲介した不動産取引業者等も何も知らず、近所で評判になっていたというものでもなかったのであるから、社会通念上、建物で自殺があったという事実を過大に評価するのは相当ではない。

 ちなみに、Xが不動産を取得した時点では建物の1階から8階までに賃借人がおり、賃料収入がある状態であったところ、その後も平成18年5月まで、建物の1階から8階までの賃借人に全く変化はなく、自殺があったとされるときから2年4か月以上も影響はなかったのであるから、形の上では、自殺は本件建物の賃貸を妨げたり、その交換価値を大きく下げる要因にはなっていないものと認めるのが相当である。

 そうすると、本件では、過去に建物内で自殺があったという瑕疵が存在することによって、不動産を賃貸し賃料を取得して利益を上げるという売買契約の目的を達することができない、とまで認めるに足りる証拠はないから、買主であるXにおいて売買契約を解除することはできないというべきである』

4.損害賠償

 次に、損害賠償については『自殺は睡眠薬の服用によるもので、建物内で死亡したわけではないことや、Xが不動産を取得した時点で既に約2年が経過していたことや、自殺の事実は社会的にほとんど知られていなかったことのほか、Xが不動産を取得した後の平成18年5月まで、建物の1階から8階まですべての部屋に入居者がいて賃料収入が上がっていたことなどの事実が認められること、
さらに、口頭弁論終結時である平成21年4月17日時点では自殺から5年以上が経過しており、今後Xにおいて建物について新たな賃借人を募集する際に、過去に自殺があったという事実を新たな借り受け希望者に対して当然に告知しなければならないような重要な事項ではないと考えられることなど、上記の事実を総合的に勘案すれば、本件の瑕疵は、Xが不動産を取得した平成17年12月2日の時点においても、極めて軽微な隠れた瑕疵に該当する程度のものと考えるのが相当である』として、『これに基づく不動産の減価による損害額は、本件不動産の売買代金額の1パーセントに相当する220万円と認めるのが相当である』と判断しました
(東京地裁平成21年6月26日判決)。

5.個別の検討の必要性

 建物内での自殺であった場合には、瑕疵にあたるかどうかが問題になりますが、事案に応じ、個別な検討が必要になります。

 例えば、家族で居住するためマンションを購入したけれども、そのマンションのベランダで売主の妻が6年前に縊首自殺していた事案(横浜地裁平成元年9月7日判決)、農村地域の土地建物を永住目的での購入をしたところ、6年11か月前に附属物置で自殺があった事案(東京地裁平成7年5月31日判決)については、いずれも瑕疵担保責任が認められ、他方、既存建物を取り壊し、
新たな建物を建築してこれを第三者に売却するための土地建物の売買契約において、売買契約の2年前に建物内で首吊り自殺があったことは、隠れた瑕疵には該当しないとされました(大阪地裁平成11年2月18日判決)。