【2011年1月】中間取得者の管理費支払義務

マンションの管理費を滞納していたAから専有部分を譲り受けたBは、その専有部分をCに譲り渡した後にも、Aが滞納していた管理費支払義務を負うのでしょうか。

1 中間取得者Bは、専有部分をCに譲り渡した後も、もとの区分所有者Aが滞納していた管理費の支払義務を負います。

2 さて、マンションの日常的な管理の経費は、区分所有者の負担する管理費によって賄われます。区分所有者は、規約又は集会決議によって決められた管理費を支払わなければなりません。管理費を滞納したまま、専有部分を譲渡しても、譲渡人は未払の管理費の支払義務を免れません。

 しかし現実的には、専有部分を譲渡し、区分所有関係から離脱した譲渡人に滞納管理費の支払を求めることは、容易ではありません。そこで区分所有法は、管理費確保のため、専有部分が譲渡された場合、管理費支払義務について、特定承継人が引き継ぐことを定めています(同法8条、7条1項)。

3 ところで専有部分の権利が、AからB、BからCに移転した場合(A→B→C)に、中間取得者であって区分所有者ではなくなったBに、Aが支払わなかった管理費の支払義務があるかどうかも問題になります。

 この問題につき、大阪地裁平成21年3月12日判決では『区分所有法8条は、「前条第1項に規定する債権は、債務者たる区分所有者の特定承継人に対しても行うことができる」と定めるところ、被告のように既に区分所有建物の所有権を喪失したいわゆる「中間取得者」についても、同条に定める責任を負うのか否かについて問題となるので、以下、検討する。

 同条は、昭和58年5月21日法律第5[1]号による区分所有法の改正によって新設されたものであるが、上記改正前に存した同法15条(旧15条)は、「共有者が共用部分につき他の共有者に対して有する債権は、その特定承継人に対しても行うことができる」とし、共有物一般に関する民法254条の規定をそのまま共用部分の共有関係に当てはめていたにすぎなかった。

 しかるに、旧15条が廃止され、8条が新設されたのは、共用部分やその共有に属する附属部分等に関する適正な維持管理を図るという改正の目的に則(のっと)り、単に共有物についての共有者間の債権の保護を図るにとどまらず、区分所有における団体的管理のための経費にかかる債権について、広くその履行の確保を図る必要があったことによるものと解されるところである。

 かかる同条が新設された趣旨に加え、区分所有建物の管理費等は、建物及び敷地の現状を維持・修繕する等のために使用されるものであり、建物等の全体の価値に化体しているということができ、中間取得者といえども、その所有にかかる期間中は上記価値を享受しているのであるし、また、中間取得者においては、売買等による換価処分の際、建物等に化体した価値に対応する利益を享受しているのであるから、かかる債権の行使を中間取得者に対し認めたとしても必ずしも不当とはいえない。

 さらには、同条の文言は「区分所有者の特定承継人」と規定するのみで、その善悪等の主観的態様はもちろん、現に区分所有権を有している特定承継人に限定しているわけではないし、一方で、中間取得者が上記「特定承継人」に該当しないとすると、本件被告のように訴訟中、あるいは、敗訴判決確定後に、区分所有権を譲渡すれば、中間取得者はその責任を免れることになり、管理組合等の実質的保護に欠けることになりかねない。

 以上によれば、被告のような中間取得者であっても、区分所有法8条に定める「区分所有者の特定承継人」に当たるというべきである。』

 と述べて、中間取得者の責任を肯定しています(平成20年11月27日判決、及び、大阪地裁平成21年7月24日判決も同旨)。

4 国道交通省の調べによれば、平成21年末現在、全国のマンションストック戸数は562万戸に達しており、宅建業者にとって、マンション売買の仲介は、とても重要な業務になっています。

 そして、マンションの仲介にあたっては、売主の管理費・修繕積立金の滞納の状況を確かめることは、必要不可欠な業務です。マンション管理業者が管理組合から管理費・修繕積立金に関する問い合わせに対して回答する業務を受託している場合には、マンション管理業者に問い合わせをすれば、滞納を知ることができます。管理業者に問い合わせをする等により、買主が、滞納されている管理費・修繕積立金によって予期せぬ支払義務を負うことのないよう、十分に注意しなければなりません。