【2010年8月】野良猫訴訟

私の住むマンションは、ペット飼育禁止ですが、室内で猫を飼育し、屋外でも野良猫に餌えさを与えて、衛生上の問題を引き起こしている区分所有者がいます。この区分所有者に損害賠償を請求することができるでしょうか。

1(回答)

 マンションの住民や管理組合は、猫の飼育や餌やりによって衛生上の問題を引き起こしている区分所有者に対し、損害賠償を請求することができます。

2 (野良猫訴訟判決)

 最近、ご質問内容と類似のケースに関し、タウンハウスでの室内の猫飼育と屋外の猫への餌やりに関する判決が公表されています(東京地裁立川支部平成22年5月13日判決)。

 このタウンハウスは区分所有建物であり、規約には「ほかの居住者に迷惑を及ぼすおそれのある動物を飼育しないこと」と定められていました(動物飼育禁止条項)。それにもかかわらず、区分所有者Cは、室内で白色の猫1匹を飼育し、加えて、屋外で複数の猫に継続的に餌やりを行い、住みかまで提供していたため、区分所有者Aらと管理組合Bが、糞尿等による被害を受け、損害を被ったとして、Cに対する損害賠償を請求しました。

 Cが将棋の元名人であったこともあり、社会的な注目を集めましたが、裁判所は、区分所有者Aらと管理組合Bの請求を認めました。

 裁判所は、まず室内飼育行為について、「管理組合の動物飼育禁止条項は、一律に動物の飼育を禁止しているものではなく、『他の居住者に迷惑を及ぼすおそれのある』動物を飼育しないことと定めているものではあるが、このような限定は、小鳥や金魚の飼育を許す趣旨は含んでいるとしても、小型犬や猫の飼育を許す趣旨も含むものとは認められない。

 確かに、動物は家族の一員、人生のパートナーとしてますます重要となっている時代趨勢(すうせい)にあるが、他方、区分所有法の対象となるマンション等には、アレルギーを有する人も居住し、人と動物の共通感染症に対する配慮も必要な時代であるから、時代の趨勢に合わせて犬や猫の飼育を認めるようにすることは、マンション等の規約の改正を通じて行われるべきである。

 したがって、白色の猫1匹の屋内飼育であっても、動物飼育禁止条項に違反すると認められる」と判断しています。

 屋外での餌やり行為についても、「Cが行っている4匹の猫への餌やりは、住みかまで提供する飼育の域に達しているのに、北側玄関に現れることの多い猫2匹についてのトイレの配慮が十分でなく、糞のパトロールの回数も不十分であることに加え、餌やりの点でも、風で飛んでしまう可能性のある新聞紙等を使用する方法や餌やり終了後の始末が遅い点で更に改善を要する点があるなど、猫への餌やりによるAらに対する被害は依然として続いているものであり、現時点での活動であっても、受忍限度を超え、Aらの人格権を侵害するものと認められる」と判断し、糞尿、ゴミの散乱、猫の抜け毛などによる被害を認め、損害賠償を肯定しました。

3 (野鳩訴訟判決)

 ほかに小動物に関する裁判所の判断としては、マンションでの野鳩の餌付け、飼育に関する判決もあります。区分所有者からマンションの一室を借りていた占有者Dが、数年間にわたり野鳩の餌付け、飼育をして、おびただしい数の野鳩が飛来するようになったため、管理組合が使用貸借契約の解除と占有者の退去を請求したという事件でした(東京地裁八王子支部平成7年11月21日判決)。

 裁判所は「Dが数年間にわたり専有部分において野鳩の餌付け及び飼育を反復継続していること、Dのこれらの行為を原因としてマンション及びその付近におびただしい数の野鳩が毎日一定の時刻ころに飛来し、そのまき散らす糞、羽毛、羽音等によりマンションにおける共同生活に著しい障害が生じていること、マンションの他の区分所有者及び管理組合は何とかDとの交渉により本件餌付け等をやめさせようと努力したが、Dにおいては話合いを頑なに拒んだ上、餌付け等を続行していることが認められ、これらの事実からすると、Dの餌付け等は、区分所有者の共同の利益に反する行為であり、その行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、ほかの方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難な場合に当たるものといわざるを得ない」と判断し、管理組合からDに対する、区分所有法に基づく契約解除・占有者退去請求(同法60条1項、6条1項・3項、同法46条2項)が認められました。


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