【2008年6月】目隠しの設置

隣地所有者が建物を建築中ですが、境界線から約80cmの位置に、私の住居の敷地を見通せるベランダをつくろうとしています。目隠しの設置を求めることができるでしょうか。

隣地所有者に対し、目隠しの設置を要求することができます。

 さて建物は、境界線から50cm以上離れた位置に建築しなければならず (民法234条1項) 、この離隔距離を確保できない位置に建物を建築することはできません。

 しかし境界線から50cm以上の離隔距離を保持したとしても、境界線の近くに窓や縁側、ベランダが設けられると、他人から眺められるような不快な感覚を抱かざるを得ません。

 そこで法律上、隣地の居住者のプライバシーに配慮し、境界線から1m未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓や縁側、ベランダを設ける者は、目隠しを付けなければならないこととされています(民法235条1項) 。

 境界線からの距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出します (同条2項) 。

 相談者の隣地において建築中の建物についても、敷地境界線から約80cmの位置に、宅地を見通せるようにベランダがつくられようとしていますから、隣地所有者には、目隠しの設置の義務があるわけです。

 建物所有者とマンションを建設しようとする隣地所有者との間で目隠し設置に関する合意があったにもかかわらず、隣地所有者が目隠しを設置せずにマンションを完成させてしまったために係争となり、裁判所が、隣地所有者に対し、目隠しの設置と100万円の慰謝料支払を命じた事件がありました(東京地裁平成19年4月27日判決) 。

 事案は次のとおりです。

 Xは、1階から3階までを賃貸し、4階に家族とともに居住する建物の所有者であり、Yは隣地所有者でした。

 Yは、X所有建物と87cm程度しか離れていない位置にマンションを建設。X所有建物は、居間の窓、トイレの窓、浴室の窓は、いずれも引き違いの窓であり、窓を開けると、隣地マンションの開口部から、内部が見通せる位置関係となってしまいました。特に、トイレ、浴室の窓は、常時閉め切っておくことが困難で、3階を賃借していた女性住人が入浴中、窓を開けていたところ、隣地マンションの廊下開口部から写真を撮られたという事件まで発生していました。

 裁判所は、まずXとYに目隠しを設置する合意があったことを認定してYに対して目隠しを設置することを命じ、さらに慰謝料について、「マンション完成後、X所有建物の3階を賃借していた若い女性が、入浴中、隣地マンションから写真を撮られたという事件があり、この女性は転居してしまい、以後、Xは、賃貸をしていないこと、Xらの日常生活の上でも、トイレや浴室の窓を開けられない生活を続けていること、Xは、Yが合意を履行しないため、東京簡易裁判所に調停の申立てをするなどしてYとの交渉を繰り返し、また、訴訟提起を余儀なくされたことが認められるところであり、これらは、合意の不履行として債務不履行を構成するのみならず、法的に保護されるべきXの生活上の利益を侵害する不法行為をも構成するというべきであり、これによってXが被った精神的損害を慰謝すべき慰謝料額は100万円をもって相当とする」と判断しました。

 日常生活におけるプライバシーについては、法律上様々な形で保護されます。裁判例の中には、のぞき見されることを根拠として、マンションのテラスの建築そのものの差止めが認められたものもあります (仙台地裁昭和55年1月25日決定) 。

 他方、近隣者間において社会生活を円満に継続していくためには、日常生活の過程において不可避的に生ずる法的侵害を互いに受忍することも必要であり、受忍限度を超えた生活利益の侵害のみが違法になるというのも、確定した判例法理となっています。

 近隣に居住する者同士は、利益が相反することも少なくありません、互いに相手の立場も慮りながら生活することが必要であり、目隠しの設置は、相手の立場への配慮のひとつということができます。