【2008年5月】周辺環境の調査説明義務

娘が小児喘息(ぜんそく)なので、環境が良い土地建物を仲介業者に探してもらい購入しましたが、購入直後、隣接地に高い擁壁(ようへき)が建ってしまいました。仲介業者に対し、損害賠償を請求できるでしょうか。

仲介業者に対し、調査説明義務違反を理由に、損害賠償を請求することができます。

 小児喘息の子供をもつ買主Xが、仲介業者Yに環境の良い物件を買いたいという希望を伝えて仲介を依頼し、Yの仲介により売買代金2,750万円で土地建物を購入したけれども、購入直後、隣接地に区画整理事業によって公園ができ、約4メートルしか離れていない位置に、高さ5メートルの鉄筋コンクリート製の擁壁が建設されてしまったという事案がありました。Yは隣接地が区画整理事業で公園となることまでは調べていましたが、擁壁が建設されることまでは調査、確認していませんでした。Xは環境回復のための建物改築費用約700万円について、Yの調査説明義務違反によって被った損害であるから、その賠償を求めるとして、Yに対し、訴えを提起しました (千葉地裁平成14年1月10日判決) 。

 この訴えに対し裁判所は、まず「Xの不動産購入の動機・目的は、不動産購入を決定する際の重要な要素であることは明らかだから、売買の目的物に直接関係することではないとしても、Yにはその動機・目的に反する結果を生じることがないよう注意を払う仲介契約上の義務があるというべきである」との一般論を述べています。続いて、「Yは売買に至るまでの間、Xの希望を聞きつつ物件を案内し、その過程で不動産の購入動機・目的を知り、また竹や雑木等の緑やそれによってつくられる空間の存在など、周辺環境を気に入って購入に至った状況を十分に認識していたのであり、周辺環境に何らかの影響を及ぼすような事情については特に慎重に調査し、Xに情報提供をすべきであった。

 確かにYは、不動産自体の調査のみならず、周辺環境についても調査し、区画整理事業の存在及び公園の建設までは確認している。しかし当時既に擁壁の設置は決定されていたこと、区画整理事業や公園の建設に伴い周辺の竹・雑木が伐採される可能性があることは容易に想像できること、公園の具体的な建設内容を把握しなければ、周辺環境への影響の有無は分からないことなどを考慮すれば、Yが区画整理事業及び公園建設の事実を把握したにとどまり、その内容の一環である擁壁の設置についての調査に至らず、この点についての説明を欠くに至ったことは、仲介契約上の調査義務ないし説明義務に違反したものというべきである」としてYの仲介契約上の義務違反を認めました。

 さらに因果関係及び損害額について、「現在良好な環境は失われ、土地から約4メートルの距離をおいて、高さ約5メートルの鉄筋コンクリート製の擁壁を目の当たりにしている。Yの債務不履行がなかったとしても、早晩周辺環境は失われてしまったはずであるから、周辺環境の悪化それ自体は債務不履行との因果関係を欠くことになるものの、Yの債務不履行がなければXは土地建物を購入していなかった可能性が高い。そしてXは、その全面的な原状回復を求める代わりに、当初期待した環境を若干でも回復すべく建物を改築する費用をもって損害であると主張していると考えられ、この費用の支出は、債務不履行がなければ生じなかったはずのものであるから、この意味において、債務不履行と改築費用の支出との間には因果関係を認めることができるというべきである」とし、Xの損害賠償請求を認めました。

 もっとも損害額については、 「Xの主張額が直ちに債務不履行と相当因果関係の範囲にあるとは断定できず、立証も困難であるから、諸事情を考慮し、損害額を300万円とするのが相当である」としました。

 仲介業者は、物件周辺の状況についての調査を行いながら業務を取り進めなければなりませんが、なかでも依頼者が周辺環境を重視しているときは、周辺環境に特段の注意を払わなくてはなりません。

 成18年の法改正によって、宅地建物の環境に関する事項であつて、取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼすこととなるものについての不実告知や事実不告知が、明文をもって禁止されました (宅建業法47条1項1号)。仲介業者にとって、周辺環境を的確に調査し、正しく説明することは、ますます重要になっています。