環境物質対策を行っているという触れ込みの新築マンションを購入しましたが、入居後、目が痒くなったり咳が出てきたりしたため、保健所に調査をしてもらったところ、高い濃度のホルムアルデヒドが検出されました。売買契約を解除することができるでしょうか。
募集の段階で環境物質対策がうたわれていたにもかかわらず、ホルムアルデヒドが行政などにより推奨されてきた水準を超えるのであれば、建物に瑕疵があって売買契約の目的を達成することができないものとして、契約解除が可能です。
新築の一戸建てやマンションにおいて、化学物質によって、目や頭が痛くなったり気分が悪くなったりするなどの健康被害が生ずることを、シックハウスといいます。近時、建物と健康や安全の関係が注目されており、シックハウスにも社会的な関心が集まっています。
そのようななか、新築マンション売買に関するシックハウスについて、瑕疵担保責任に基づき、契約解除を認めた判決が出ました(東京地裁平成17年12月5日判決)。
事案は次のとおりです。
平成14年7月27日、代金4,350万円で新築マンションの売買契約が成立、翌平成15年5月29日に引き渡されました。パンフレットや新聞折込チラシには環境物質対策基準を遵守している旨の記載がありました。
しかし入居後、目が痒くなったり咳が出るなどの健康被害が生じたため、同年7月25日、保健所に依頼して室内空気環境調査の簡易測定を行ったところ、引渡し当時のホルムアルデヒドの濃度が0.1㎎/m3を相当超える水準であったことが判明しました。住宅室内のホルムアルデヒド濃度については、厚生省(当時)の組織した住宅関連基準策定部会や、建築物における衛生的環境の確保に関する法律の定める建築物環境衛生管理基準(同法4条1項、同法施行令2条2 号)により、0.1㎎/m3以下の水準に抑えるべきであるとされており、測定の結果検出されたホルムアルデヒドは、この水準を超える高い濃度となっていました。このような状況では到底居住を継続することができず、買主は、同年8月22日、室内に搬入した家財道具を搬出し、引っ越しをしました。
判決ではまず、「売主はマンション分譲にあたり、環境物質対策基準であるJASのFc0基準及びJISのE0・E1基準を充足するフローリング材等を使用した物件である旨をチラシ等にうたって申込みの誘因をなし、買主はこのようなチラシ等を検討の上購入を申し込んだ結果、売買契約が成立したのである。そうである以上、売買契約においては、建物の備えるべき品質として、建物自体が環境物質対策基準に適合していること、すなわちホルムアルデヒドをはじめとする環境物質の放散につき、少なくとも契約当時行政レベルで行われていた各種取組において推奨されていた水準の室内濃度に抑制されたものであることが前提とされていたものとみることが、両当事者の合理的な意思に合致する」として、明示的な契約条項になってはいないものの、売買契約について環境物質の放散が一定水準以下であることを前提としていたと判断されました。
そして環境物質放散の水準につき、「売買契約当時までの状況を踏まえると、住宅室内におけるホルムアルデヒド濃度は、少なくとも厚生省指針値(0.1㎎ /m3以下)の水準に抑制すべきものとすることが推奨されていたものと認めるのが相当である」、「本件においては、引渡し当時における室内空気に含有されたホルムアルデヒドの濃度は、0.1㎎/m3を相当程度超える水準にあったと推認されることから、建物にはその品質につき当事者が前提としていた水準に到達していないという瑕疵が存する」とした上、「当該瑕疵の結果、買主はいったん搬入した家財道具をわずか約1か月後に再度搬出し、以後建物に居住していないのであるから、当該瑕疵により売買契約の目的を達成することができないことは明らかである」として、売買契約の解除が認められました。
この判決では債務不履行と不法行為の主張は排斥されましたが、シックハウスに関しても、売主は瑕疵担保責任を負うものであり、売買契約の解除が認められる場合もあるという先例があらわれたことは、注目されます。