【2005年2月】売買代金の支払方法

買主が売買代金の残代金を預手で支払うといっていますが、預手とはどのようなものでしょうか。また銀行振込による支払をもって決済するということはできないでしょうか。

 預手とは銀行が自己を支払人として振り出した自己宛小切手です(小切手法6条3項)。預金小切手という場合もあります。例えば甲銀行麹町支店が甲銀行麹町支店を支払人として振り出した小切手が預手です。これに対し甲銀行麹町支店が甲銀行虎ノ門支店を支払人として振り出した小切手は送金小切手といい、預手とは区別されます。
 預手は小切手ですから支払人は銀行であり(同法3条)、また銀行が振り出したものである以上銀行が遡求義務を負います(同法39条)。さらに呈示期間経過後に呈示されたときにも事故届が出されているなどの特別な事情がない限り、通常所持人は銀行で支払を受けることができます。そのために預手は確実に支払を受けることができるものとされています。
 取引額が大きい場合、現金をそのまま支払うのでは、持ち運びなどにたいへんな労力がかかり、紛失・盗難のおそれもあります。決済の現場では現金を数える手間と時間がかかり、数え間違えの可能性もあります。そこで取引実務において、預手が現金に代わる支払の手段として利用されています。
 小切手法には支払保証の制度もあり(同条53条1項)、かつては支払手段として、銀行が支払保証をした小切手が利用されたこともありました。しかし支払保証の場合には銀行は直ちに保証金額を預金者の当座勘定資金から控除することができないために、保証を整理するための預金者の資金が、第三者による差押えの対象となったり、預金者が破産したときに破産財団に属してしまうおそれを否定することができません。他方預手(自己宛小切手)の交付であれば小切手の売買と解釈されていますので、交付先が銀行の取引先である場合には直ちに預金から小切手金額を控除できますし、またその他の場合でも金銭支払(代わり金)と引換えに小切手を交付するものであって、銀行に危険がありません。そのため現在では支払保証のある小切手ではなく、預手が現金代用物としての役割を果たすことになっています。
 裁判例においても、小切手に関する一般的な理論としては小切手を提供しても弁済の提供とは扱われないのに対し(最高裁昭和35年11月22日判決)、預手の提供は債務の本旨に従った弁済の提供となるものとされています(最高裁昭和37年9月21日判決)。
 不動産売買の決済においても、取引額が大きいところから、預手による支払が行われることは少なくありません。
 ところで不動産売買における代金の決済について、現金又は預手ではなく、銀行振込によって行うことも可能です。預手が現金に代わる支払の手段とされているのは、銀行の信用に基づきますが、最近では銀行の信用がかつてのように絶対的なものではなくなっていることから、預手の授受ではなく、売買代金残代金を売主の銀行口座に振り込む方法をとって決済をするというケースも増えてきています。
 しかし売主の登記義務・物件引渡義務と買主の代金支払義務が同時履行の関係に立つことは売買契約の当事者間における最も基本的にして重要な関係です。振込みによる決済の場合にも、売主の義務と買主の義務のどちらか一方が先行してしまうことのないように注意をしなければなりません。登記等の必要書類を確認する前に振込みだけ先行したり、振込手続の前に登記等の必要書類を引渡してしまうことは、トラブルの原因になります。
 そこで実際の決済は、[1]売主が買主に対して登記等の書類を引き渡す準備ができていることを示し、それらの必要書類はまず売主の手元においておく、[2]買主が売主の手元の必要書類を確認してから、売主の銀行口座に代金を振り込む手続きを行う、[3]売主と買主が同席のまま、振込金が売主の口座に着金するのを待つ、[4]売主が決済の場において電話などで自分の口座に代金の入金があったことを確認する、[5]その上で売主から買主に必要書類を引き渡す、という段取りで進めるのが普通です。売主が自分の銀行口座に着金があったことを確認するまでの時間はかかりますが、銀行振込によって決済を行う場合には、売主と買主のいずれにも不利にならないよう、このような方法が取られています。