【2004年6月】管理費の消滅時効

マンションの管理費・修繕積立金を10年近くも支払わない区分所有者がいます。管理組合から未払いの管理費・修繕積立金の全額を請求することができるでしょうか。

 支払時期から5年を経過していない管理費・修繕積立金(管理費等)は請求することができますが、管理費等については、5年の消滅時効にかかりますので、支払時期から5年を超えた部分は、消滅時効を援用されると、請求をすることができなくなります。
 消滅時効とは、権利を行使しない状態が一定期間継続することにより権利消滅の効果を生ずる制度です。義務を果たさない不誠実な者を保護する結果となるにもかかわらず、法律上消滅時効が認められることについては、[1]長期間にわたって存続している事実状態を尊重して、その事実状態を前提として構築された社会秩序や法律関係の安定を図る、[2]過去の事実の立証の困難を救い、本来債務から解放された者を保護する、[3]権利の上に眠る者は保護されない、という3つが理由として挙げられています。
 さて我が民法では、一般に債権は10年で消滅時効にかかりますが(民法167条1項)、他方で特別の債権に関しては、短期の消滅時効も定められています(同法169条ないし174条)。例えば「旅店、料理店、貸席及び娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、木戸銭、消費物対価並びに立替金」は「1年間之を行わざるに因りて消滅す」と規定されていますので、飲み屋のツケであれば1年経てば消えることになります。
 短期消滅時効のひとつとして、「年又はこれより短き時期を以て定めたる金銭其他の物の給付を目的とする債権」(定期給付債権)であれば、5年間で消滅するという規定があります(同法169条)。もし管理費等の支払請求権が定期給付債権に該当するならば5年の消滅時効にかかることになります。これに対し、管理費等が定期給付債権に該当しないならば、5年ではなく、一般原則のとおり、10年で時効消滅することになります。
 管理費等の消滅時効期間が5年か10年かという問題については、従来裁判例が分かれており、高裁の判断としては、5年説をとった大阪高裁平成3年1月31日判決、10年説をとった東京高裁平成13年10月31日判決がありましたが、最高裁による明確な判断は公表されていませんでした。
 しかしこの問題について、最近、最高裁から5年説を採るという明確な判断が示されました。「管理費等の債権は、管理規約の規定に基づいて、区分所有者に対して発生するものであり、その具体的な額は総会の決議によって確定し、月ごとに所定の方法で支払われるものである。このような本件の管理費等の債権は、基本権たる定期金債権から派生する支分権として、民法169条所定の債権に当たるものというべきである。その具体的な額が共用部分等の管理に要する費用の増減に伴い、総会の決議により増減することがあるとしても、そのことは、上記の結論を左右するものではない」と判示されています(最高裁平成16年4月23日判決、最高裁ホームページ)。区分所有建物の管理費等は、通常、毎月定期的に一定額を支払うことになっており、定期給付債権に該当するから、5年の消滅時効にかかるというわけです。
 ところで消滅時効期間が経過したからといって、権利は確定的に消滅したということにはなりません。法律上「時効は当事者が之を援用するに非ざれば之に依りて裁判をなすことを得ず」とされています(民法145条)。援用するとは、主張するという意味です。債権者としては、消滅時効の期間が過ぎている場合であっても、支払いを求めることが許されていないものではなく、債権者の請求に応じて債務者が支払いをすれば、消滅時効期間経過後の支払いであっても、義務の履行となります。
 時効の進行を止めることを時効の中断といいます。中断事由として、[1]請求(裁判上の請求)、[2]差押、仮差押、仮処分、[3]承認の3つが定められています(同法147条)。管理組合としては、管理費等を支払わない不誠実な区分所有者に対しては、消滅時効期間が満了する前に、裁判上の請求をするなどの中断の措置を講ずることが必要です。