【2003年11月】住宅ローン特約

住宅ローンを借り入れて売買代金を支払う計画で、手付金を支払い、住宅の売買契約をしましたが、ローンの借入れができませんでした。それでも残代金を支払い、住宅を購入しなければならないのでしょうか。

住宅の売買契約では、多くの場合に金融機関からの住宅ローン融資によって、売買代金が支払われます。住宅ローンで売買代金を支払う計画を立てて売買契約を締結したにもかかわらず、金融機関からの借入れができないと、買主は購入資金を得ることができず、たいへんに困ったことになってしまいます。
 そこで住宅ローンを借りて住宅を購入するときは、住宅ローン特約が付けられるのが通例です。住宅ローン特約とは、買主が住宅ローンを借りられなかったときには、違約金等の負担をすることなく、手付金が返還され、無条件で契約を解除することができるという約定です。
 住宅ローン特約があれば、特約に基づいて売買契約を解除することができます。住宅ローン特約に基づいて契約解除の意思表示をすれば、無条件で手付金を取り戻すことができます。
 住宅ローンの特約を付けて売買契約を締結したときは、買主は一定の期限内に、誠実に住宅ローン申込みの手続をする義務を負います。買主が、住宅ローンの申込みをしなかったり、書類準備などを怠ったため借入れができなかったような場合には、住宅ローン特約は適用されません。共同買主が連帯保証人となることを拒んだために融資を得られなかった事案について、ローンが実行されなかったのは買主側の責に帰すべき事由によるものであるとして、ローン特約に基づく解除は許されないとした裁判例があります(東京地裁平成10年5月28日判決)。
 また、金融機関から融資を拒まれた場合には、買主は速やかに住宅ローン特約により契約解除をするか、ほかの方法で資金を調達するかを選択しなければなりません。どちらも選択せずに相当期間が経過すると解除権は消滅し、契約解除はできなくなります(東京高裁平成7年4月25日判決)。
 ところで、住宅ローン特約がなければ、借りるつもりであった住宅ローンを借りられなかったとしても、買主は代金支払義務を免れず、資金を調達しなくてはなりません。
 しかし、住宅ローン特約がなくとも、住宅ローン借入れが、売買契約における重要な前提となっている場合もあります。そのような場合については、売買契約が錯誤によって無効になるかどうかを検討する必要があります。
 錯誤とは、契約における表示行為と真実とが食い違っており、しかもその食い違いを表意者が知らないことをいいます(民法95条)。契約の重要な部分について錯誤があるときには、契約は無効です。住宅の売買契約において、住宅ローン借入れが重要な前提条件だったけれども、実は住宅ローンを借りられない状況だったという場合には、錯誤があったものとして契約は無効になると考えられます。
 裁判例としては、代金調達方法として予定していた財形融資を受けられなかった場合に売買契約が錯誤により無効とされたケース(東京高裁平成2年3月27日判決)、床面積の点で住宅金融公庫融資の対象とならない物件だったのに住宅金融公庫からの融資を前提とした契約を締結してしまった場合に売買契約は錯誤により無効と判断されたケース(東京地裁平成5年11月29日判決)があります。
 売買契約が錯誤により無効となれば、手付金も買主に返還されることになります。
 以上、ご質問につきましては、[1]住宅ローン特約があれば特約に基づく解除をすることができる、[2]住宅ローン借入れが契約の重要部分となっていれば錯誤による無効を主張することができる、[3]住宅ローン特約がなく、錯誤無効を主張することもできないときには、売買契約上の義務を履行しなければならない、ということになります。
 なお住宅ローン特約については、住宅ローンが不成立なら当然売買契約は効力を失うという解除条件型の特約もあります。この場合には住宅ローンを借りられなかったときは解除の意思表示をしなくとも自動的に売買契約の効力はなくなります。