閑静な住宅地にある中古住宅を購入しましたが、隣人から、平穏な生活に支障を来すような迷惑をかけられ続けたために、居住を断念しました。売主や仲介業者に損害賠償を請求することができるでしょうか。
売主や仲介業者が隣人の迷惑行為を知っていたのであれば、売主と仲介業者のいずれに対しても、損害賠償請求をすることができます。
さて売主には、購入希望者が契約を締結するか否かを決めるために重要な意味をもつ事項について、契約前に説明をしておかなければならない義務があります。
また仲介業者も、宅建業法35条(重要事項の説明等)に定められているか否かにかかわらず、契約締結の判断に影響を及ぼす可能性のある事項が分かっていれば、その事項を説明しなければなりません。宅建業法47条1号も、業者に対し、重要な事項に関し、故意に事実を告げず、又は不実のことを告げる行為を禁止しています。
居住用住宅の売買契約締結に際しては、隣人から迷惑行為を受け、そのために平穏な生活に支障を来す可能性が高い場合には、売主と仲介業者のいずれにも説明義務があります。隣人の迷惑行為は、購入後の重大な不利益であり、契約を締結するかどうかの判断に影響を及ぼすからです。
隣人の迷惑行為の説明義務について、最近、注目すべき裁判所の判断が公表されました。事案は次のとおりです。
買主は、平成14年3月10日、業者の仲介により、閑静な住宅地に存在する中古住宅を代金2,280万円で購入し、同年5月28日に引渡しを受け、所有権移転登記も完了しました。ところが購入後、子供とともに現地を訪れると、西側の隣人から「あんたのガキうるさいんじゃ」、「追い出したるわ。覚悟しいや。」など怒鳴られ、またステレオの音量を大きくされ、さらにホースで放水され、警察官を呼ぶ騒ぎにまで至りました。このようなことが繰り返されたために、買主は結局この住宅に引っ越すことを断念せざるを得なくなってしまいました。
ところで前所有者である売主についても、平成11年11月にこの住宅に引っ越してきたときに、隣人から「子供がうるさい。黙らせろ!」と苦情を言われ、あるいはその後、怒鳴られたり洗濯物に水をかけられたり泥を投げられたりしていたため、自治会長や警察に相談をしたという事実がありました。仲介業者に関しても、平成14年3月3日にほかの購入検討客を案内し内見させたとき、隣人から「うるさい」と苦情を言われたために、その購入検討客がこの住宅を購入する話が流れたという経緯もありました。売主も仲介業者も、隣人の迷惑行為が分かっていたわけです。
裁判所は、売主について、「購入希望者に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される場合には、信義則上、当該事項につき事実に反する説明をすることが許されないことはもちろん、説明をしなかったり、買主を誤信させるような説明をすることは許されない」とし、仲介業者について、「隣人について迷惑行為を行う可能性が高く、その程度も著しいなど、購入者が当該建物において居住するのに支障を来すおそれがあるような事情について客観的事実を認識した場合には、当該客観的事実について説明する義務を負う」として、売主と仲介業者の両者の説明義務違反を認定し、代金2,280万円の20パーセントに相当する456万円を損害と認めました(大阪高裁平成16年12月2日判決)。
この判決で課される義務は、仲介業者にとっては、やや過大とも感じられますし、また隣人の行為を購入希望者に伝えることは、プライバシーの問題が生じるようにも思えます。しかし判決では、「業者に近隣居住者に関する調査義務を課す訳ではないから過大な負担とはならない上、客観的事実をありのままに述べるにすぎないから法的に問題を生じるおそれもない」としています。
仲介業者は、購入希望者の購入後の生活に著しい影響を及ぼす可能性のある事項については、十分な説明が必要です。